脳動脈瘤と未破裂脳動脈瘤
脳動脈瘤とは脳の動脈にできた瘤(コブ)のことで、この瘤があっても一度も破れたことの無い場合には、これを未破裂脳動脈瘤と呼びます。
未破裂脳動脈瘤動脈瘤は一般の成人の約4〜6%位がこれを有すると言われており、比較的頻度が多い疾患です。以前よりこれはくも膜下出血という予後不良な状態を来しうる原因としておそれられてきました。くも膜下出血は一旦発生すると、現在の医療をもってしても約1/3が社会復帰可能となる程度であり、その他は重篤な障害を残したり、亡くなってしまうことがあります。しかし現在、未破裂脳動脈瘤のどれくらいが破れてくも膜下出血を来すのかという明かなデータがありません。また一方では優れた脳神経外科施設で破裂前に予防的治療をうけても手術後に障害を来たした例が報告されています。従って未破裂脳動脈瘤の自然歴および現在の本邦における診療の実態を把握することは極めて重要となります。
脳動脈瘤はくも膜下出血の主な原因となる病態ですが、未破裂脳動脈瘤とは、これが何らかの検査でこれが破れる前に見つかったものです。近頃脳ドックの普及、CTやMRIなどの普及により、急激に多く発見されるようになってきています。実際には人口の約6%近くがこのような瘤をもっていると考えられています。この病気は一旦破れるとくも膜下出血という命にかかわる病気をひき起こす一因として恐れられ積極的な治療(開頭して小さなクリップをかける方法や血管内より治療する方法)が勧められてきました。
未破裂脳動脈瘤に関する欧米のデータ
しかし、近年欧米から多くの症例をあつめた国際報告がなされ、未破裂脳動脈瘤はこれまで考えられていたほど破れることはないとされました。これはこれまでの報告とは大きく異なるため、本邦で多く発見される未破裂脳動脈瘤の治療方針を確立するためには、本邦独自の未破裂脳動脈瘤に関するデータを収集することが急務であると判断されました。
未破裂脳動脈瘤の破裂の危険性
現段階では、未破裂脳動脈瘤の破裂する正確な率は不明です。これまで未破裂脳動脈瘤は年間1%位の頻度で破裂するとされてきました。一方1998年の国際報告では、1センチ以下のものでは破裂率は年間0.05%、1センチ以上のものでは年間0.5%であると報告されました。これらの破裂率は極めて低く、これを真実としますと殆どの1センチ以下の動脈瘤の手術の必要は無いということになります。また、本当にたとえば直径7ミリや9ミリの動脈瘤を経過観察して良いのかという疑問にも到達します。さらには、欧米でのデータを本邦における症例にそのまま当てはめられるのかは解りません。
破裂しやすくする危険因子として、瘤の大きさの大きいもの、壁の不整なもの、くも膜下出血に合併した未破裂脳動脈瘤、喫煙、高血圧を有する患者、多発性脳動脈瘤などがあげられていますが、報告により様々なものが指摘されており明かな証拠となるデータに乏しいという状態です。